2020年度前期特別報告 コロナ時代のイスラーム

2020年7月25日現代研究会 特別報告

「コロナ時代のイスラーム」

 

立教大学兼任講師

小村 明子

2020年7月25日に、オンラインにて「コロナ時代のイスラーム」の報告を行った。

イスラームでは礼拝や宗教儀礼などにおいて、常に集団で宗教活動することが求められている。それがコロナ禍においてこれまで集団で行うことができなくなった。そこで、ムスリムたちはどのようにこの状況を乗り越えているのか、その現状把握とコロナ禍の状況が将来的にイスラームという宗教を変化することにつながるのかという可能性をみることを目的として本調査を行った。

まず現状として、インバウンドの現場におけるムスリム観光客対応について、上野および浅草を事例にして報告した。日本国内のインバウンド関連産業は、ムスリムや非ムスリム関係なくどの地域においてもコロナ禍によって停滞を余儀なくされている。特に、上野・浅草という世界的に有名な観光地を抱える台東区においては、特異とも言える訪日観光客対策を行っている。例えば、ムスリム観光客への対応として、「ムスリムおもてなしマップin 台東区」というフリーマップを作成している。また区では、ハラール認証を取得する区内の飲食店等に対して、認証取得費用の一部を助成する「台東区ハラール認証取得助成事業」も実施している。コロナ禍によってムスリム観光客が減少した中では、ハラール・レストランの存続も危ぶまれる状況にあると言わざるを得ない。現に、浅草寺周辺にあったハラール食対応のレストランのうち、数店舗は店を閉めた状況にあった。

また、2020年のラマダーンについても報告した。今年は4月24日から5月23日までの間がラマダーンの時期に入ったが、奇しくも緊急事態宣言に入っていた時期に重なった。ラマダーンでは、義務ではないがやった方が良いと言われる夜間の礼拝と、イフタールと呼ばれる日没後に摂る食事において集団で行われている。これらは確実に密になる。そこで海外と日本の対策について調べてみたところ、どの地域においても自粛が行われていた。日本では大抵のマスジドやイスラーム団体も、イフタールや夜間の集団礼拝は行わず、ムスリム各自で行うように告知された。また具体例として、日本人ムスリムに2020年のラマダーンをどのように過ごしたのかインタービュー結果も報告した。

最後に、現状の考察を行い、結論を述べた。これまで集団で行なっていたこと(金曜礼拝やラマダーンのイフタールやイスラームの大祭であるイードなど)が行えなくなった今、集団でどのように行うのか、その創意工夫が世界のムスリムの間で見られたと言えよう。ただし、ムスリム個人のイスラームに対するひたむきな姿勢もあって、集団で行動する動きも見られたことは否めない事実である。今後、コロナ禍の状況は2、3年続く可能性が高い。イスラームも今後の社会状況に見合うように変わらざるを得ないのではないだろうか。

現代研究会

「文化と社会に関する様々なテーマ、諸問題を取り上げ、過去から未来への歴史的視野で考察し、議論を行う」ことがこの研究会の目的です。