2020年度前期第5回現代研究会報告


日時:2020年7月25日(土) 13:00~16:30

場所:オンライン(Zoom会議室)

発表1(特別講義)

発表者:村瀬洋一

テーマ:日本の将来をどう認識するか ―震災後の社会意識と社会階層析―

要約:現代日本人は日本社会についてまたその将来についてどう考えているのか。講義は広範な内容にわたったが、すべてに触れるのは不可能なので、ここでは主要部分を略述する。はじめに社会学の二大テーマである秩序問題、社会変動(社会行動)が解説された。その後で研究目的である社会意識と社会階層の関係の解明が述べられた。将来認識は社会的地位に関係しているのか。

また、社会意識は職業、性別、人脈、地域等によって異なるのか。研究の最終目的は将来認識と政府評価の規定因を解明することである。これらを明らかにするため、2014~15年にかけて、発表者が福島、仙台、東京で実施した調査結果の分析・考察が行われた。一つ二つ例を挙げると、「日本社会は今後よくなる」という設問に対して、福島では男性の69%、女性の80%、東京では男性の63%、女性の70%が否定的であった。「復興に関する国民の意見が政策に反映」に対しては、福島では男性の23%、女性の14%、東京では男性の24%、女性の14%が肯定的であった。また調査方法、データ分析の基本モデル等が説明された。福島市男性の結果分析から判明したことは、政府評価に対して最も規定力が強かったのは将来認知、放射能不安感、現在認知、社会的地位である。また社会階層の高さがより肯定的な将来認知、またより小さい不平等感を生み出す傾向にあった。


特別報告:

報告者:小村明子

テーマ:コロナ時代のイスラーム

要約:現代社会を麻痺させているコロナ・パンデミックはイスラームの在り方にどのような影響を与えているのか。サラー(礼拝)、ラマダーン、ハッジ(聖地メッカ巡礼)等、イスラームは集団での宗教活動を教義の中核とする宗教である。ムスリムたちはいかにこの事態に対処しているのか。発表者は自らのフィールドワークに基づいて報告を行った。はじめに浅草周辺の観光地の現状が説明された。台東区は積極的にムスリム観光客向けのインバウンド対策を実施し、ハラール・レストランのハラール認証取得の助成を行っている。しかしかつては外国人観光客で溢れていた街は閑散としていて、中には閉店した店舗もある。その後でムスリムがいかにコロナの影響に対処しているのかが述べられた。ムスリムは感染防止のためのマスクを着用し、マスジド(モスク)等では消毒を徹底する。また三蜜を避けるため、礼拝は一人一人で、あるいは各家庭で行う。2020年ラマダーン(4月23日~5月23日)も同様であった。日本国内のマスジドでの集団礼拝は行われなかった。日本人ムスリムの中には感染を恐れて家庭内でラマダーンを過ごした人もいる。これらの行動の変化は一時的なものなのか、それともより永続的な影響を与えるのか。継続して注視する必要がある。


発表2

発表者:吉田秀登

テーマ:戦後日本の話題の宗教書

要約:戦後日本においてどういう宗教書が話題になったのか。はじめに日本の宗教関連出版社の系譜と歴史が概観された。仏教系出版社、神道系出版社、キリスト教系出版社、大学出版局、宗教教団である。また一般の出版社も宗教の入門書、研究書、小説、マンガ等を出版している。次いで戦後日本の話題の宗教書の歴史が述べられた。発表者はこれをわかりやすく要約して、昭和(20年代以降)は池田大作の時代であり、平成は大川隆法の時代であったと言う。池田大作の『人間革命』はおそらく日本の宗教書出版史上最大のベストセラーであろう。そしてそれを引き継いだのが霊言シリーズを中心とする大川隆法の一連の著作群である。最近では樹木希林の死についての本がベストセラーなり、またターミナルケア、葬式、墓等、「終活」関連の本がブームになっているという。これらを補って戦後日本の宗教書出版におけるいくつかの興味深い事実が披歴された。例えば昭和23年にドストエフスキー『罪と罰』、トルストイ『復活』がベスト10入りしたこと、月刊『ムー』が40年以上続いている人気雑誌であること、またエンターテインメントが重要な側面であることが指摘された。過去においては『西遊記』や『薔薇の名前』、現在では佐藤優、中田考、島田裕巳、中沢新一等の著作がそれにあたる。話題の宗教書の歴史を学ぶとその時代背景が浮き彫りなって見えてくる。


感想:とてもよい研究会でした。三つの発表という長丁場でしたが時間が経つのが速く感じられました。貴重な学びの体験であったと思います。発表者の方々に感謝します。また参加者の方々にも。やむを得ない社会状況のため、今年の前期はオンラインでの研究会となりましたが、大きな問題もなく無事に終了することができました。遠隔地からの参加、参加率の上昇、活発な発言など、むしろオンラインの長所が勝っていたように思います。後期もまたオンラインです。運営方法などさらに工夫を重ねてゆきたいと思っています。


次回後期研究会開始予定:

9月5日(土)13:00~16:00

発表者:

平林二郎、平明子

(敬称略)

現代研究会

「文化と社会に関する様々なテーマ、諸問題を取り上げ、過去から未来への歴史的視野で考察し、議論を行う」ことがこの研究会の目的です。