2020年度前期発表8 江戸期の仏教をめぐって-「江戸期の仏教思想」改め-
江戸期の仏教をめぐって(「江戸期の仏教思想」改め)
竹内和正
廃仏毀釈を被るまでに至った江戸時代の仏教側の状況はどんなものだったのか、という関心のもとに、江戸期仏教に係わる諸事件、思想を概観しようと企てた。
江戸期の仏教書籍、現代における諸研究を読み、ネット検索によって調べた結果を報告する。
1. 江戸期仏教の特徴辿り着いた江戸期仏教の特徴
以下の点が挙げられるのではないか。
① 江戸幕府は対キリスト教対策として積極的に仏教を利用した。寺請制度、本山制度で行政組織のようにピラミッド化した。〔金地院崇伝、天海が協力〕
② 各宗派は法度によって取り締まられた。〔総まとめは1665年の諸宗寺院法度全九条〕
③ 各派では教学、学問体系が確立した。〔檀林、学林、学黌〕
④ 戒律復興が行われた。〔隠元来日、万福寺が契機、天台の安楽律公認に至る〕
⑤ 幕府により異議唱えが禁止され、他宗との論争も禁止された。統制系統の乱れは許されない。
⑥ 新宗派は、例外の黄檗宗を除き生まれなかった
2.各宗派の動き
各宗派の動きを追ってみた。
① 天台宗
・天海版一切経の緩行開始
・安楽律を巡る騒動
② 真言宗
・新義真言宗の分裂(智山派、豊山派)
・古義真言宗高野山での学侶、行人の争い
・学問では悉曇(文字:サンスクリットへの入口)研究の系譜
③ 浄土宗
・大我『三彜訓』:「神儒仏は勧善懲悪、天下安泰の学として一致」
・事件に乏しい
④ 一向宗(浄土真宗)
・幕府による東本願寺建立支援で大谷派と西本願寺の本願寺派に分裂。
・異安心(いあんじん)、つまり異論の抑圧
西本願寺:三業(さんごう)惑乱(わくらん)
東本願寺:頓(とん)成(じょう)事件
・僧侶の寺院生活での三つの罪を諫める徳竜の『僧分教誡三罪論』
・排仏論への反論、竜温『総斥排仏論』
⑤ 法華宗(日蓮宗)
・不受不施派、その流れの悲田派の幕府による禁止弾圧
・不受不施派の日奥『宗義制法論』
⑥ 臨済宗
・紫衣事件:後水尾天皇による紫衣着用勅許の結果、沢庵らの流罪
・白隠の看話(かんな)禅、盤珪の不生禅、古月派の仙厓
⑦ 曹洞宗
・雑学事件
3.寺と民衆
民衆との関係では仏書出版の増加、寺子屋の普及、年中行事の定着、巡礼の定着、他方での呪術の定着、そして葬送の定着があった。特に「葬送の定着」が江戸時代であったこと、これが我々の時代に非常に近いことは驚きであった。
4.まとめ
特に廃仏毀釈に至る原因を見つけることはできなかった。が、強いて言えば、西洋人の来訪で須弥山的世界観の根拠がないことが明らかになる等、思想的説得力が失われる中、幕府に統制され幕府支配の一環であった為、幕府と同一視された仏教界は、当初は世俗主義の儒者に、やがて排外精神に溢れた国学者に足下を崩されたのではないか、ということである。
2020年7月28日
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