2020年度前期第3回現代研究会報告

日時:2020年6月27日(土) 13:00~16:10

場所:オンライン(Zoom会議室)


発表1

発表者:杉平敦

テーマ:1990年代以降の日本における『宗教』の受け止められ方、論じられ方、そして役割

要旨:宗教はなぜ危ないのか?なぜ怪しいのか?またいったい「「宗教」と呼ばれるものと、呼ばれないものの違いは何か?」1995年3月に起きたオウム真理教による地下鉄サリン事件その他をきっかけとして、1990年代以降に日本人の中で「宗教」という概念がどのように変化したのか、またそれが何を意味するのかが社会思想史的に分析・考察された。発表者によれば、今日の日本で「宗教」と呼ばれるものは「非日常的なもの」「他者に属するもの」という特徴を持っている。こうした宗教観の起因となったオウム事件に対する知識人の倫理的・思想的反応が、柄谷行人『倫21』、吉本隆明・他『尊師麻原は我が弟子にあらず』を例に検証された。それ以降の日本人は、すでに身近な存在となった神道、仏教、キリスト教を「宗教」とはみなさず、「宗教」とはそれ以外の「非日常的なもの」(つまりオウム的なもの)を意味するようになった。またそれを徹底して排除することによって、危機に遭遇した伝統的日常性を守ろうとしたのではないかという。詳細はホームページ掲載予定のエッセーを参照されたい。

発表2

発表者:平明子

テーマ:宗教と思想のあいだ―ヒンドゥー教の食の規律にみる思想と信念―

要旨:出発点はヒンドゥー教における菜食主義である。ヒンドゥー教では、カーストによって程度が異なるが、上位カーストはかなりの程度に菜食主義者であるという。(ただしこれには異論もあったが、ここでは深く立ち入らない。)発表者は様々な菜食主義を概観した後、徹底した菜食主義者であるヴィーガンに着目し、その発祥とも言える「マクロビオティック(マクロビ)」について解説し考察を加えた。この食思想は戦前に桜沢如一が創始したもので、食糧難というという当時の社会的事情もあるが、陰陽論に基づき、動物性のものはおろか過度の調理すら避けるという菜食主義・自然食主義である。マクロビは現代において注目され、多くの実践者を生み出している。さてヴィーガン、あるいは菜食主義になる理由は宗教的な信仰・禁忌ではなく、あくまで個人的なものである。しかしその信念の強固さをみると、発表者は、そこにより深い次元、「心の安定」を求める「宗教のようなもの」があるのではないかと推察する。詳細はホームページ掲載予定のエッセーを参照されたい。


感想:Zoom効果とでもいうべきだろうか、前回に引き続き多くの参加者があった。(久しぶりに細井先生が参加され、肉声を拝聴することができた。また吉田秀登さんがZoomで初参加された。)それぞれの発表の後、テーマについて白熱した議論が交わされ、有意義な研究会となった。参加された方々に感謝を申し上げます。

Zoomは便利な媒体ではある。いつでも参加できるし、いつでも退室できる。気楽な軽さ。二次元の世界に住んでいるような、不思議な感覚である。しかし終わった後やはり疲れたと感じる。発表者はもっと感じるだろう。やはり―時々でよいから―三次元の、「五感」を使った普通の研究会がしたい、というのが正直な感想です。

連絡・協議事項

前期発表スケジュールの最新版が紹介された。また後期研究会の在り方として、対面と遠隔を併用するハイブリッド研究会の可能性が説明された。


現代研究会

「文化と社会に関する様々なテーマ、諸問題を取り上げ、過去から未来への歴史的視野で考察し、議論を行う」ことがこの研究会の目的です。