2019年度後期 発表4 言語と方言〜方言の持つ可能性をめぐって〜

現代研究会 2019年11月9日


平 明子

言語と方言 ~方言の持つ可能性をめぐって~


宮崎県小林市は公式動画配信や西諸弁ポスター作成を始めとした地域の方言を肯定的な姿勢で表に出すユニークなプロジェクトを中心に地方創生につながる活動を積極的に推し進めた結果、ふるさと納税の総額が増加、移住に関する問い合わせも増えた。本発表では、宮崎県小林市の取り組みを通して情報発信における方言の有効性と、その成功の理由の考察を試みた。

小林市は西諸と呼ばれる地域にあり、面積 562.95㎢、人口44,034人(2019年10月1日現在)の市であり、その地域で使用されている方言が諸県弁である。諸県弁は本土方言のうち、九州方言、その中でも薩隅方言に分類され、九州南部で使用されている方言の一つであり、宮崎弁に近い、あるいは宮崎弁と共通することが多いと言われている。言語と方言の違いとは何であろうか。言語とは言語学的な視点では「人間が脳内に生得的に有する計算体系である」とされており、また広辞苑には「人間が音声や文字を用いて思考・感情・意思などを伝えるために用いる記号体系およびそれを行う行為」と記されている。それに対し、方言とは「ある(個別)言語が地域や環境によって別々な発達をとげ、音韻・語彙・文法などの点において他の地域や社会的グループの言語と異なる特徴を有する言語体系のこと」とされている。このように、言語と方言には明確な分類基準や区別の方法はないことがわかる。

近代における方言に対する立場は、田舎くさい、出身地域がわかってしまうなどネガティブなイメージが先行するものであったが、共通語(標準語)があたり前になり情報過多になりつつある現代においては逆に新鮮で印象に残るものとなり、地方からの発信力を強め、その独自性を都市部に届ける力になっている。

先行研究を踏まえて、情報発信における方言の役割を考察した。

A ① 方言は「キャッチフレーズ」のように使われている

A ② 方言の使用が増えてきていることを考えると、情報発信(CMや広告)での方言の使用は有効である

A ③ PR動画の作成・発信は比較的低予算でありながら地方創生には効果的である

A ④ 地方創生という枠に加えて、地元創生という概念、発信の目的を明確に持つことが重要である

A ⑤ 方言を含む作品の制作活動や発信内容がその関連地域の中の人か、外の人かという区別ではなく、市外在住の出身者とのネットワークを強固にするものであることも重要である

さらに、望ましい結果を得るための特徴や重要点として以下をあげたい。

B ① 有効性がみとめられるのは方言が適切な状況とタイミングで使用された場合に限られるということ

B ② ユーモアやおふざけはどこまで受け入れられるのか、それが効果的にある場合と、逆効果を生む場合の境界線はどこなのかという制作側の見極めの重要性

これらの検証より、以下のことが考えられる。我々は日常的に他者の発する情報や思考内容を理解し自分もその活動を行っているなかで、その情報の中に「知らない単語や表現」が含まれていても理解すべく言語処理を行っている。しかしその場合、知らない部分が全体の理解の妨げになる程度に大きくなると拒否し、ギリギリわかる程度に収まっていると受け入れる、さらには新鮮に感じるなどプラスの効果を引き出すと言える。方言とは、使用者(地元の人)にとっては「言語」、非使用者にとっては「他言語」と捉えることが可能で、その方言が、非使用者が自力かつ短時間で「何とか」理解できる程度の語彙的・音韻的変異であることが受け手の心をひきつける要素であると考えられる。

ここで示す「何とか」理解できる程度にするには、言語外の知識(一般常識、流行など)に頼ることが有効であり、その境界をうまく活用することによって受け手(視聴者)への刺激、地方創生・地元創生の一助となりうる。しかしそれは「方言への理解や(言語学的・民俗学的意味での)方言の保存」に大きく寄与するものではなく、ある方言における一部選ばれた言語表現が生き残るだけということになる可能性も否めないことは残念なことであると感じた。


竹内華奈子  「広告表現における方言使用に有効性と影響について」2017年 駒沢大学

越智一仁   「関係人口という地方創生のヒント」電通報 2017年

現代研究会

「文化と社会に関する様々なテーマ、諸問題を取り上げ、過去から未来への歴史的視野で考察し、議論を行う」ことがこの研究会の目的です。