2019年後期 発表1 鳥栖市の日本語教育 ―教科「日本語」と地域創生―④教育と地域創生

④教育と地域創生

鳥栖市の日本語教育の内容を知り、また授業参観、関係者との懇談を通して、強く感じたことがある。それはこの新科目が鳥栖市という地域の危機意識から生まれていることである。教育の分野で、どうしたら鳥栖市は実績を上げ、勝ち残ることができるのか。これは極めて現実的な問題である。さらにはそれを超えて、地域社会鳥栖において、どうしたら未来の日本を担う子供たちを育てることができるのか。これは地域創生の本質に関わることである。鳥栖市はそれを一自治体として構想し、現実化させた。

文化を創るのは人間であるが、人間を創るのは教育である。教育の持つ力はとても大きい。中でも小中学校の基礎教育は、人間の人格と知識の核を創るという点で、絶大な影響力を持っている。

文部科学省の「小学校学習指導要領」を読むと、小学校のカリキュラムが網羅的であることがわかる。そこにあるのはすべてを満遍なく教えるという考えである。また国語に膨大な時間数が投入されている。おそらくその大半は漢字の学習に割かれるのだろう。しかしこの方法論は実際にどれだけの効果を上げているのか。はたして子供たちのニーズに合った教育なのか。より思い切った特色、重点的目標設定が必要ではないのか。「教科「日本語」」では日本の伝統文化、地域文化という極めて具体的な課題を掲げている。これは画期的なことである。さらに驚いたのは教える知識の質の高さである。小学校1・2年用教科書にはいきなり『論語』の文章が引用されている。

子曰く、三人行えば必ず我が師有り

【いみ】孔先生がおっしゃいました。「三人でいっしょに行動すれば、その中には必ず自分のお手本になる人がいるものです。」

これは古典教育だろうか。

小学一年生にこうした文章の意味がわかるのか。一木校長の答えは「たとえわからなくても子供は言葉のリズムや響きを学ぶことができる」というものであった。

たしかにそうかもしれない。

ある意味で教科「日本語」は江戸時代の寺子屋教育(手習い)を思い出させる。最盛期には日本全国で二万もの寺子屋があったという。これは現代日本の小学校の数にほぼ匹敵する。子供は早ければ3~4歳で寺子屋に通った。そこで『論語』の素読を行った。素読とはただひたすら書き下し文を音読することである。意味はわからないままに。だが熱心な子供は何年かすると全編を暗唱できるようになる。これは正しい教育法であろうか。否定しようが、肯定しようが、江戸時代の日本人の高い識字率がこうした基礎教育によって支えられていたのは事実である。

教育が地域創生と直接関係するのは地域文化を教えることによってである。すべての地域には特色がある。それぞれ独自の歴史があり、土着の文化伝統がある。それは知らず知らずのうちに地域住民にとっての誇りとなり、アイデンティティとなっている。したがって各地域の学校教育の役割はまずその内容を子供たちに教えることにある。この教育は早ければ早いほどよい。地域創生はもちろん生きるための物質的、経済的基盤なしには実現できない。だがそれがすべてではない。さらに進んで地域愛を育む精神のルーツを開拓しなければならない。その時、教育は大きな鍵となるのである。

鳥栖市の意欲的な試みが実を結ぶことを祈りたい。

謝辞:鳥栖市日本語教育についてのレポート作成に際してお世話になった、鳥栖北小学校長一木徹也氏、鳥栖市教育委員会古賀泰伸氏、また鳥栖市役所総合政策部田中大介氏に感謝を申し上げたい。

参考資料:

鳥栖市ホームページ

https://www.city.tosu.lg.jp/

鳥栖市(ウイキペディア)

https://ja.wikipedia.org/wiki/鳥栖市

『鳥栖市人口ビジョン』 鳥栖市総合政策課 平成27年9月

「鳥栖発創生総合戦略[概略版]」 鳥栖市 平成27年8月

増田寛也編著 『地方消滅―東京一極集中が招く人口急減』 中公新書 2014年

2015年6月28日産経ニュース:

「日本語」教科化、国際人を養成へ 佐賀・鳥栖市の“教育改革”

https://www.sankei.com/life/news/150628/lif1506280026-n1.html

「鳥栖市日本語教育基本計画」 鳥栖市教育委員会 平成26年2月

https://www.city.tosu.lg.jp/Material/28005.pdf

教科「日本語」 日本語、大好き しりたい つかいたい つたえたい 鳥栖市教育委員会

教科「日本語」 鳥栖市教育委員会

第4学年 教科「日本語」学習指導案

『日本語』小学校1・2年(改訂版) 鳥栖市教育委員会 2017年3月31日

『日本語』小学校3・4年(改訂版) 鳥栖市教育委員会 2017年3月31日

『日本語』小学校5・6年(改訂版) 鳥栖市教育委員会 2017年3月31日

『日本語』中学校(改訂版) 鳥栖市教育委員会 2017年3月31日

『平成30年度 教科「日本語」実践事例集』 鳥栖市教育委員会

鳥栖市立鳥栖北小学校ホームページ

http://cms.saga-ed.jp/hp/tosukita-e

シュガーロード

https://magnets.jp/life/8237/

「文部科学省 小学校学習指導要領」

http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/youryou/syo/

【寺子屋での学び】江戸時代の教育内容とは?仕組みや識字率・人数・年齢など

https://nihonsi-jiten.com/terakoya/

現代研究会

「文化と社会に関する様々なテーマ、諸問題を取り上げ、過去から未来への歴史的視野で考察し、議論を行う」ことがこの研究会の目的です。