2019年後期 発表1 鳥栖市の日本語教育 ―教科「日本語」と地域創生―③授業参観

③授業参観

2019年9月5日筆者は鳥栖市役所を再訪した。今回の目的は鳥栖市が地域創生の一環として実施している「教科「日本語」」の授業を参観することであった。鳥栖市総合政策課の田中大介氏及び鳥栖市教育委員会の古賀泰伸氏の案内で近くの鳥栖市立鳥栖北小学校に向かった。初めて見る鳥栖北小学校の校舎は見事な建築であった。この小学校は1956年に鳥栖小学校の分校として始まり、翌1957年に鳥栖北小学校として独立したものである。創立は比較的新しいが、児童数752名、教職員61名の、かなり大きな小学校である。

中に入ると校長室に案内され、校長の一木徹也氏に面会した。訪問の目的を述べしばらく歓談した後教室に向かう。参観した授業は、篠原千尋教諭担当、木曜日3時限目、4年2組(児童数35名)の「教科「日本語」」であった。授業のテーマは「シュガーロード」である。江戸時代に、長崎を窓口としてポルトガル、オランダ等から食文化がもたらされた。そのためか長崎街道沿いには甘いものの名産品が多い。鳥栖(田代宿)もその例に漏れない。このルートをシュガーロードと言う。

このレッスンの主眼は、子供たちがシュガーロードとは何かを知ることにより、長崎街道、佐賀県、および鳥栖市の歴史と文化を学ぶことにある。先生が12枚のお菓子の写真を6ペアに分けて黒板に張り付ける。半分は日本産のお菓子、残りは外国産のお菓子である。子供たちにそれぞれのペアについて、どちらが古いのかを考えさせ、その理由を述べさせる、またどれとどれが鳥栖のお菓子であるのかを当てさせる。一種の「お菓子クイズ」である。

授業はよく工夫されていた。短い授業時間なのでポイントを絞って教える。知識の丸暗記ではなく、課題を与えて思考訓練を行う。だが理詰めの授業プランとは関係なく、子供たちの反応はのびやかであった。先を争って手を挙げる。子供たちのお菓子への関心と知識の量に圧倒された。「学び」とは情熱である。楽しい流れに巻き込まれ、鳥栖市のお菓子をいくつか覚えた。ちゃんちゃん坊、ふくらすずめ最中、栗饅頭、そして八起のアイスキャンディーである。元気いっぱいの子供たちを見ることは刺激的な体験であった。

授業が終わって再び校長室に戻り、しばし歓談した。教育委員会の古賀泰伸氏から「教科「日本語」」創設の目的と意図の説明があった。これについては、すでに前節で(筆者の意見を交えて)述べたが、加えて特に印象に残ったのは「コミュニティ・スクール」の考えである。これは学校と地域が一体化して「教科「日本語」」を支える教育プロジェクトである。「教科「日本語」」の教科書を使うのは先生と子供たちだけではない。子供たちの親も、また地域住民もそれを読み、内容の理解を深める。この科目は学校内に閉じられたものではなく、地域社会鳥栖全体に開かれたものである。

帰りがけに、校舎の入り口に小さな石碑があるのに気付いた。「創造」の二文字が刻まれている。後日、鳥栖北小学校のホームページを開いて、二文字が校歌の歌詞と重なるのを感じた。

清き 自然を ともとして

たのしく はげむ まなびやに

ああ その幸を おもいつつ

理想も高く 進みゆく

われら 鳥栖北小学校

(鳥栖北小学校校歌<二番>)

現代研究会

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