後期テーマ:「地域創生」発表1④元気のある町

④元気のある町
増田レポートは、最後に希望の拠りどころとして、地域創生が成功している実例を挙げる。近未来において現在の人口が増加する、もしくは同じレベルが維持されると予想される自治体である。
2040年において総人口が現在よりも増えると予想される市町村は相当数ある。
さらには若年女性人口が増加すると予想される自治体も存在する。レポートはこうした成功例から、2040年若年女性人口変化率上位20位の自治体を取り上げ、それをいくつかのパターンに分類している。
書き出すと次のようになる。

1)産業誘致型 [石川県川北町、鳥取県日吉津村、愛知県幸田町、みよし市、高浜市、佐賀県鳥栖市]
2)ベッドタウン型 [神奈川県横浜市都筑区、福岡県粕屋町、志免町、宮城県富谷町、富山県舟橋村、群馬県吉岡町、埼玉県吉川市、滑川町、広島県広島市安佐南区、奈良県香芝市]
3)学園都市型 [愛知県日進市]
4)公共財主導型 [大阪府田尻町、京都府木津川市]
5)産業開発型 [秋田県大潟村]


1)産業誘致型は大中企業の工場、事業所等あるいは商業施設を誘致することによって雇用を創出し、また財源を確保し、安定した自治体を築こうとするものである。最も成功した例は小規模自治体であるようだ。
石川県川北町は人口6,332人(2018年4月1日)の小さな町である。この町は、増田レポートでは、2040年若年女性人口変化率第1位(+15.8%)にランクされている。
中心となる企業は(株)ジャパンディスプレイ石川工場で、様々な電子部品を製造している。
川北町はまた優れた子育て環境の町として知られる。
町は産業誘致による税収を利用して高度な福祉政策(月額2万円の保育料支給、18才未満の医療費免除等)を実施している。
鳥取県日吉津村の人口はさらに少なく、3,505人にすぎない。
だが2040年若年女性人口変化率では7位(+6.8%)に入っている。
王子製紙米子工場、イオンモール日吉津という大手企業がこの村の雇用を創り出し財政を安定させている。
より大きな自治体として、愛知県幸田町(人口41,204人、2040年若年女性人口変化率+1.3%)、みよし市(人口62,728人、同変化率―0.4%) 高浜市(人口47,895人、同変化率―2.4%)、佐賀県鳥栖市(人口73,732人、同変化率―2.4%)がある。これらの自治体にはかなりの数の大中企業の工場、事業所、サービスセンター、あるいは商業施設が立地し、地域経済を支えている。

2)ベッドタウン型は、言うまでもなく、職場のある大都市・中核都市近郊の住宅地である。これらの小都市は横浜市、福岡市、仙台市、広島市等の近くに位置する。交通の便、居住環境、地価の安さ等が立地条件となる。

3)学園都市型はいわゆる欧米によく見られる「大学都市」に相当する。この種の都市は日本では成立が難しく、愛知県日進市は例外的な存在である。名古屋市、豊田市近郊のこのベッドタウンは愛知学院大学、椙山女学園大学を始めとして十近い大学・短大が集中している。2040年の若年女性人口変化率は全国12位(+1.8%)である。

4)公共財主導型は大規模な公共財の恩恵を受けた(いわば「他力」による)地域創生である。大阪府田尻町(人口8,411人)は面積5.62km2の小さな町だが、1994年に開港した関西国際空港の税収により豊かな財源を持つ。2040年若年女性人口変化率は全国9位(+3.8%)である。もう一つの成功例として挙げられるのが京都府木津川市(人口75,289人)である。「関西文化学術研究都市」ニュータウンとして整備され、国や多数の企業の研究所等が存在する。2040年若年人口変化率は全国10位(+3.7%)である。

5)産業開発型はこれまでの類型とはまったく異なる。地域の特性あるいは資源を生かして独自の産業振興を行い、雇用を生み出して人口の定着と社会の発展を目指す。そのよい例として秋田県大潟村の例がある。大潟村は八郎潟干拓の結果、国家政策によって出現した農業自治体である。1966年に最初の入植が始まり、その後の発展は「減反政策」という愚行のため決して平坦ではなかったが、一戸当たり平均10ヘクタールの大規模農業を実現し成功させた。2018年4月1日現在の人口は3,004人であるが、人口構成は老齢化しておらず、2040年若年女性人口変化率は全国2位(+15.2%)になると予想されている。秋田県内では唯一の安定成長自治体である。

これらの地域創生が成功した例から何が言えるのか。
まず言えるのは、人口減少が避けられない現代日本に、こうした地域創生を成し遂げた自治体、「元気のある町」が実在するということである。
第二に言えるのは、その成功が創意工夫とたゆまぬ努力の結果であるということだ。ほとんどは「自力更生」によるものである。
第三に言えるのは、地域創生成功の鍵が、産業の振興と雇用の創出、つまり経済的自立にあるということである。第四には、多くの成功例が複合的な特徴を持つことである。
例えば産業誘致型自治体の多くは近隣の中核都市のベッドタウンでもある。またその逆も真である。
同様のことは、学園都市型にも公共財主導型にも言える。これは地域社会の在り方のニーズに基いた多様化であろう。

しかし同時にまた、第五に言えるのは、傑出した特徴なくして地域創生の成功はあり得ないことである。
産業誘致型にしてもベッドタウン型にしてもまた学園都市型にしても、そうした特徴がブランドになるまで努力を傾注した結果である。
そしてこの点で最も注目すべきは産業開発型の存在であろう。大潟村はその稀有な例である。

上位20位以内ではないが、類似の自治体は他にも存在する。
増田レポートが挙げているのは、眼鏡関連産業の福井県鯖江市(人口68,591人、2040年若年女性人口変化率―27.1%)、国際(もはや外国であるという見方もある)観光立町の北海道ニセコ町(人口5,173人、同変化率―38.4%)、木質バイオマス発電構想の岡山県真庭市(人口44,265人、同変化率―52.1%)等である。
そして最後に言えるのは、増田レポートが理想とした「地方ブロック構想」がもし実現しうるとすれば、あいまいな「地域」プロジェクトとしてではなく、一自治体の自発的「町興し」として始まるということではないだろうか。
逆に言えば、一自治体の独立覇気の自立が所属するブロックの活性化を刺激するということではないだろうか。

以上は、主に増田レポートに準拠した、現代日本の地域状況と創生の概観である。このレポートは日本の地域創生に関する先駆的な研究である。
しかしあくまで人口学的(あるいは地域経済学的)な分析であり、当然その限界もある。問題の数値的な側面はよくわかるが、その中で何が起きているのかはよく見えない。実際はどうなのだろう。
そこで、三つの地域創生の例、大分県臼杵市、徳島県神山町、及び佐賀県鳥栖市を取り上げて、より具体的に検証し、考えてみたい。

(⑤に続く)
参考資料:
増田寛也編著『地方消滅』(中公新書、2014年)
手厚い子育て支援で人口が1.5倍に!-石川県川北町
http://mtm.html.xdomain.jp/kiji/gk/culture/social/ishikawa.kawakitamati/ishikawa.kawakitamati.html
住みやすさに人が集まる日進市
https://www.o-uccino.jp/article/posts/43749
秋田県大潟村は、なぜ「農業」で消滅可能性都市を免れたのか
https://www.sbbit.jp/article/cont1/31778
国内シェア96%!福井県鯖江はなぜ「メガネの聖地」なのか
https://www.e-aidem.com/ch/jimocoro/entry/makino012

現代研究会

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