後期テーマ:「地域創生」発表1③地域創生は可能か
③地域創生は可能か
①②においてかなり悲観的な日本の現状と未来の予測を述べた。これに対してもちろん日本人は手をこまねいて眺めているわけではない。ここでは、地域創生の構想とその可能性について述べたいと思う。
地域創生のために何をなすべきなのか。
増田レポートは国家レベルでの対処が不可欠であることを強調し、2015~2034年の20年にわたる国家戦略を提言する。第一次総合戦略(2015~2024年)では希望出生率※(1.8)の実現、東京一極集中の歯止めが目標である。第二次総合戦略(2025~2034年)ではさらに進んで人口置換水準(2.1)を実現し、人口安定への礎石を築くのが目標である。
だが現状を考えると、これらの目標は限りなく遠いようだ。何故なら真剣に問題に取り組むべき国家そのものがほとんど行動を起こしていないからである。合計特殊出生率を劇的に上げるためには、それを可能にする条件、あるいは環境の整備をしなければならない。働く女性の出産・育児休暇制度の充実はもちろんのこと、子供の教育の全面無料化、さらには二人以上の子供を持つ核家族の税金を免除するなど、抜本的な政策が必要になる。そうした条件、環境が整って初めて増田レポートの展望が可能になる。
残念ながら現在の国家政策は問題の直視を避けて少しずれた方向に向かっている。外国人観光客、労働者、留学生等を地域創生の起爆剤にするという。この苦し紛れの対象療法はよい結果を生まないだろう。この問題にここで深く立ち入るのは避けるが、結論だけ述べると、かつてバブル期に起きた外国人労働者受け入れと同じ問題が繰り返されることになるだろう。一時的な人手不足の解消にはなったにしても、長い目で見た地域の人口増加、出生率の向上につながらない。多文化社会ではない日本において異邦人の社会的定着が困難であるからだ。
地域の再活性化、復活があり得るとすれば、やはり最終的には(古い表現を借りて言えば)「自力更生」によるしかない。外部からの援助ではなくて地域が内側から目覚めることによってしかない。ここで増田レポートは東京一極集中の歯止めを実現する具体的方策を提言する。地域における「防衛・反転線の構築」あるいは「ダム機能」の強化である。だがそれはいかにして可能か。地域をより求心力のある、魅力的な場所にすることによってである。
大都市圏への大規模人口流出を避けるためには、まずその地域に住む「必要条件」が存在しなければならない。主な条件として①十分な雇用機会があること、②居住環境がよいこと、及び③文化・伝統があることが考えられる。さらには若者を繋ぎ止める街にする必要がある。するとそこに追加の「十分条件」が加わる。つまり、魅力ある仕事があること、育児環境・サポートが得られること、教育・福祉・医療が充実していること、さらには娯楽施設の有無、また若者文化が育つ環境があることなどである。
だがこうした理想的条件の整備は小規模な自治体、あるいは単体の小都市では難しいであろう。そこで地方においてある程度の規模を持つ地方ブロックの構築が必要になる。増田レポートはこのブロック構築の求心力を日本各地の地方中核都市に求める。地方中核都市とは人口20万人以上の、昼夜間の人口比率が1以上の都市で、全国に61あり、平均人口は45万人である。各地域はこうした中核都市を中心に独立した経済圏、文化圏を構成し、安定した人口動態を維持しようというものである。この構想は総務省が指定した「地方中枢拠点都市」をさらに発展させたものである。
地方ブロック構想はうまくゆくのか。言い換えれば、現代の日本において多極分散型社会は実現できるのか。ダム機能を持つ都市圏を全国規模で構築するのは可能なのか。現時点ではその可否を問うのは難しい。北海道の例にあるように、現在起きているのは(もちろん帯広圏のような例外はあるが)大規模地方ブロックにおける大都市への一極集中である。構想を実現するにはその流れを変えなければならない。しかしあまりにも多くの制約があり、また地域による歴史文化的特色、経済的実力が異なり、一様の解決策は見いだせそうにない。
だがこれは近未来の日本の命運を考えると、実現しなければならない。我々はもはや経済の継続的成長が不可能な世界に住んでいる。そうした状況で極点社会(東京)の到来は国家消滅への道である。何故なら、歴史が証明しているように、多様性を失くした社会は硬直化し、やがて滅亡するからだ。多極分散型社会への移行を模索しなければならない。それでも人口は減り、社会は縮小するだろう。これは明らかな撤退戦である。だがそれでも戦う必要がある。自暴自棄の戦いは自殺行為であるが、ビジョンに基いた戦いはやがて社会存続への道を拓く。そのためには国家レベルの構想とサポート、また地域における叡智の結晶と抜本的政策の実施が必要であろう。日本の未来はこうした社会の創造的再編成にかかっていると言えよう。
(④に続く)
※:希望出生率=[(既婚者割合 x 夫婦の予定子供数) + 未婚者割合 x 未婚結婚希望者割合 x 希望子供数 x 離別等効果] 1.8≒[(34% x 2.07人) + 66% x 89% x 2.12人] x 0.938
「2010年出生動向基本調査結果」に基く。
参考資料:増田寛也編著『地方消滅』(中公新書、2014年)、移住選択先の条件 NPO法人「ふるさと回帰支援センター」(2018年2月28日)https://thepage.jp/detail/20180228-00000010-wordleaf、安倍首相「観光で地方創生」=石破氏は防災省提唱-政策比較(2018年9月12日) https://www.jiji.com/jc/article?k=2018091200691&g=eco、外国人労働者、永住も可能に…熟練技能を条件 「読売新聞」(2018年10月11日)https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181010-00050135-yom-pol
総務省「地方中枢拠点都市」関連資料(資料34)
http://www.soumu.go.jp/main_content/000256142.pdf
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