後期テーマ:「地域創生」発表1②消滅可能性自治体
②消滅可能性自治体
それでは日本の近未来において各地域はどうなるのか。
地域の未来の予測をするためには何らかの判断基準が必要である。ここで通常バロメーターとして使用されるのが「若年女性人口」である。具体的には20代、30代の女性、あるいは20歳から39歳の女性の人口を指す。いわゆる出産可能年齢層である。実際には出産は20歳以下の場合もあれば、40歳以上の場合もある。また出産可能年齢層の全員が結婚するわけでも、出産するわけでもない。しがって正確ではありえないが、一応の目安としてその割合を地域の人口再生産力ポテンシャルの指標として使う。それを基に日本の各自治体の未来を推定する。その結果はどうなるのか。
二つの予測がある。
一つは国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の予測で、それによれば2040年の若年女性人口の減少率が50%を超えるのは373自治体、全体の20.7%である。だがこれはあくまで将来の人口動態が収束に向かうと仮定しての推定である。かなり楽観的な予測である。もう一つは増田寛也編著『地方消滅』(中公新書、2014年)<以下「増田レポート」と呼ぶ>である。それによれば今後も人口減少による人口動態が収束することはない。その結果同じ2040年に若年女性人口の減少が50%を超える自治体は何と896を数える。全体の49.8%である。極めて悲観的な予測である。
ではどちらが正しいのか。性急な結論は避けなければならないが、増田レポートが出版されたのは2014年である。それから4年後の現在までに起きたこと(起きなかったこと)を見てみると、事態は予想以上に深刻である可能性がある。
ここで少し増田レポートが詳細に論じている北海道の状況を見てみよう。
戦後の北海道総人口の推移はピークが三つあり、最初は高度経済成長期、二番目はバブル期、最後はバブル崩壊の数年後である。1950年に4,295,567人だった人口は1968年には5,391,857人に急伸し、その後中だるみ期を経て1986年に5,668,059人になる。バブル崩壊後は横ばいを続けるが、1998年に最大人口5,693,495人を記録する。その後は緩やかな下降を続けるが、リーマンショック後の2010年頃から急激に減り初め、2040年には4,190,073人まで落ち込むと推定されている。1950年以来90年で元の水準以下に逆戻りすることになる。このパターンそのものは日本の他の地域とそう変わらない。ただその変化が劇的なだけである。この急激な変化は地域の若年人口、生産年齢人口の大量流出と低下する出生率によるものである。
より詳しく見てみると、現在起きているこの人口動態にはかなりの地域差が存在する。増田レポートはそれを次の四つに分ける。
①流出大超過(釧路圏)、②流出超過(旭川圏・北見圏)、③安定(帯広圏)、④流入超過(札幌圏)である。釧路圏、旭川圏、北見圏等は経済的地盤沈下から人口流出が止まらない。釧路圏の衰退は産業の失速である。かつてここは北洋漁業の重要な基地であった。また炭鉱、製紙工業が盛んであった。旭川圏も同様である。旭川は北海道第二の都市で、かつて家具産業を始めとする地場企業が栄えた。また農業の存在があった。だがそれも昔のことである。他の地域も大なり小なり同じ状況である。流出した人口は札幌圏(あるいは東京圏)に流入する。北海道内で札幌圏への急速な一極集中が進んでいる。まさに日本の縮図と言えよう。唯一の例外は帯広圏で、ここでは農業・酪農業を基盤に経済が自立し、人口の流出は非常に小さい。(しかし高齢化による近未来の人口減少はやはり避けられず、2040年の若年女性人口変化率は―49・8%である。)
さらに北海道には消滅しかけている自治体が存在する。その一つが夕張市である。夕張市はかつて炭鉱の町として栄えた。1960年には人口116,908人を数え、街には活気が溢れていた。(また翌年には夕張メロンというブランドも誕生した。)しかし時代とともに石炭は化石燃料としての重要性を失い、また悲惨な坑道事故が多発し、1990年までにはすべての炭鉱が閉鎖された。市は生き残りをかけて観光産業等を試みるが、すべて失敗に終わる。人口減少は止まることを知らず、2016年には8,851人に落ち込んだ。最盛期の13分の1に減ったのである。若者は町を捨てて去り、市内には老人しか残っていない。税金はとても高く、生活費もまた高い。だがよい行政サービスはできない。さらには、市は毎年多額の借金を返済しているという。夕張市はすでに消滅の危機に瀕している。増田レポートよれば、2040年の若年女性人口減少率は84.6%である。
以上のように、北海道のほぼ全域で人口減が進行している。最も深刻なのは若年女性人口の激減である。増田レポートの予測によれば、2040年において若年女性人口の減少率が50%を超える自治体は何と全自治体の78%に及ぶ。つまり全体の八割近い市町村が消滅の危機に瀕することになる。
増田レポートは2040年において50%以上の若年女性人口減少が予測される市町村を「消滅可能性自治体」と名付ける。日本全体(福島県は除く)で896に達し、何と半分の自治体が消滅する可能性を持つことになる。
この推定に基く最悪のシナリオは、
第一段階:大半の地方自治体が消滅して人口が東京圏及び地方大都市圏に流入する。
第二段階:地方大都市圏が衰退し、東京への一極集中が進む。これを極点社会と言う。
第三段階:東京圏が崩壊する。
というものである。
もちろんこの通りにはならないであろう。日本人が現状を放置して何もしない場合にどうなるのかという、最悪の予測である。
では何ができるのか。何をなすべきなのか。
(③に続く)
参考資料:増田寛也編著『地方消滅』(中公新書、2014年)、「北海道の人口2.2%減の538万人 札幌の一極集中進む」(日本経済新聞2018年10月6日)、「夕張市破綻から10年「衝撃のその後」若者は去り、税金は上がり…」(NHKスペシャル取材班2017年7月17日https://gendai.ismedia.jp/articles/-/52287?page=2)、「夕張市の人口推移」(夕張市)、その他。
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