2018年度後期発表1①日本の現状と未来

※後期のテーマは「地域創生」とし各自発表となります。

2018年9月22日 第6回現代研究会
発表者:実松克義
テーマ:「地域創生を考える」

①日本の現状と未来
地域創生に関して日本の現状を理解することから始めよう。
国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」によれば、2010年に1億2,806万人だった日本の人口は2040年には1億728万人、2060年には8,676万人、2090年には5,727万人に減少する。
また高齢化率(65歳以上)は、2010年の23%から2040年には36%に上昇し、2060年に40%に達してその後は同じ水準を保つ。
その結果、生産年齢人口(15~64歳)はそれぞれ8,174万人、5,787万人、4,418万人、2,854万人に、また年少人口(14歳以下)はそれぞれ1,684万人、1,073万人、792万人、516万人に減少する。
もちろんこれらの予測は現在までの趨勢がこれからも続くと仮定してのことである。

さてこの予測変化の過程には三つの段階がある。
第一段階では老年人口が増え、生産年齢人口・年少人口が減少する。
第二段階では老年人口は維持され、生産年齢人口・年少人口が減る。
そして第三段階では老年人口、生産年齢人口、年少人口すべてが減少に転じる。
これが人口学の予測による日本の近未来である。
ところでこれはあくまで日本全体を平均化した場合の話である。
これだけでも憂鬱な気持ちになるが、さらに暗くなる事実がある。
それは未来の絶望的な変化がすでに地方では起きているということだ。
第一段階の変化は実は東京等の大都市及び地方の中核都市に限られた現象である。
地方の5万人以下の小都市はすでに第二段階に突入している。
さらには過疎の市町村ではすでに最後の段階、第三段階の真っ只中にいる。
これは日本の致命的とも言える人口減少が、地方を震源地として波状的に拡大していることを示している。
ただ地方における人口減少、地方の過疎化は今に始まったことではない。
すでに長い歴史を持っている。戦後の日本でこれまでに大きな人口の社会移動が三回あった。
最初は1960年代の高度経済成長期である。
この時期に、よりよい仕事、教育、機会を求めて、地方から東京圏、大阪圏、名古屋圏等へ大きな人口移動があった。
その代表が若者の「集団就職」また壮年男性の「出稼ぎ」である。
その結果地方の過疎化が進み、正常な社会・産業機能の維持が困難になった。
「三ちゃん農業」という言葉に象徴されるように、男性の生産年齢人口が激減したのである。
二回目は1980年代後期のバブル経済期である。
前回とほぼ同じ理由で、多くの人々が東京圏等へ移動した。
実際、この狂気のような時期には数限りない仕事が作りだされた。
その労働力の確保のために、海外からも労働者が流入した。
そして三回目が21世紀初めから始まる東京圏への人口移動である。
この移動の理由はそれまでとは異質である。
地方に仕事がなくなったために、職を求めて移動が起きたようである。
二回目、三回目を通して、大阪圏、名古屋圏には大きな変化は見られない。
おそらくこの最後の人口移動は東京圏への一極集中の加速、他大都市圏の停滞を示唆するものであろう。

以上でわかるように、地方の人口減少、衰退はすでに60年前から始まっている。
したがってその意味では目新しいことではない。
ただ違うのは、これまでが人口増加における社会移動であったのに対して、現在起きているのは、人口減少における社会移動であるということだ。
経済が成長している社会においては、過疎地であっても将来に一縷の望みがあった。
将来また復活するかもしれない。だが現在は異なる。
町や村が臨界点を超えて過疎化すれば、もはや誰も助けてはくれないのだ。
こうした状況を引き起こした最大の原因は出生率の低下である。
日本の合計特殊出生率は1947~1949年に4.32だったのが2005年には1.26まで減少した。
2015年には1.46まで回復したが、それでも人口を維持するための人口置換水準(日本の場合は2.07と言われる)には程遠い。
いかなる理由で出生率の低下が起きたのかについてはここでは触れない。
ただ、その低下が地域創生の最大の問題であることを確認しておきたい。

ところでここにはアイロニーが存在する。
それは地方の出生率が、大都市に比べるとはるかに高いということだ。
日本で最も出生率の高いのは沖縄で、1.94もある。
対照的に、最低の東京はわずか1.17である。他の地方においても1.46~1.7が平均的な出生率である。
では何故地方は衰えているのか。
若者、あるいは生産年齢人口が大都市へと流出し、その流れが止まらないからである。その一方で、大都市そのものの人口の再生産能力は低い。
その意味で大都市とは、言い方は悪いが、地方という寄生体の生き血を吸って存続している吸血鬼のような存在である。

(②に続く)
参考資料:増田寛也編著『地方消滅』(中公新書、2014年)、その他。

現代研究会

「文化と社会に関する様々なテーマ、諸問題を取り上げ、過去から未来への歴史的視野で考察し、議論を行う」ことがこの研究会の目的です。