2022年度後期現代研究会発表8 異世界へようこそ―アニメに見る日本人のスピリチュアリティ

2022年度後期現代研究会発表8

異世界へようこそ―アニメに見る日本人のスピリチュアリティ

2022年10月29日

小村明子

本発表では、『現代宗教論』の第12章で記した論文内容に、2022年秋シーズンまでテレビ放映されたアニメーションを加えてアップデート版とした発表である。

上記書籍の第12章では、1989年から2022年春シーズン(4月〜6月)テレビ放映分までの異世界転生アニメについて、どのようにして異世界に転生するのか、また、転生者の現世での生き方と異世界に転生された後の生き方を比べて5つに分類した。さらに、各分類の特徴を具体例を紹介しながら挙げていき、分析した。本発表では、その分析結果に2022年夏シーズン以降の異世界転生アニメを加えた。

異世界に転生する時、転生者となる主人公たちは必ずと言って良いほど現世の記憶を保持している。また、現世における彼らはネガティブな生き方(「彼女いない歴=自分の年齢」、童貞、オタクで引きこもり、など)をしているが、異世界に転生すると勇者など異世界において最強の人物となる。さらに、異世界では女性にもてまくる描き方をされる。だが、異世界に転生する者が男性の場合と女性の場合とでは、現世での生き方が異なっている。男性の場合は、先述の通り、ネガティブな人生であったり、あるいは冷酷な人格であったりと人間性を問うようなものが多い。しかしながら、女性の場合は現世でもさることながら、異世界でも苦労をしたり、普通の生活を求めたはずが特別な存在として生きることになったり、さらには努力を重ねた結果成功するような描かれ方をするものが散見される。

異世界転生アニメは現実社会への悲観が生み出したものであるのだろうか。実際に、異世界転生アニメがいつどのように描かれて放映されるようになったのかを調べていくと、2010年頃から年々放映数が増え始めている。また、その多くがインターネットサイトの「小説家になろう」でライトノベルという分野で人気になった作品や、賞をとった作品がアニメ化およびマンガ化になったものである。同種のアニメが人気になり、かつその放映本数が増え始めたのは、まさにインターネットの影響によるものであるといえる。だが同時に、実生活が自分の思いのままにいかないことへの不安や不満を「異世界転生」という非現実の話に昇華させていることもいえる。それゆえに、多くの異世界転生アニメで描かれている主人公の転生前の社会は主人公たちにとって「何をしてもうまくいかない世界」として描かれている。また主人公たちの性格は内向的であり、あるいは歪んだものとして多々描かれていることとなる。さらには日常生活においても仕事も追われたりなど、およそ人生の成功者としては描かれていないのである。

では、異世界転生アニメは単なる現実逃避のアニメであるといえるのだろうか。2022年夏以降の作品の中には、長い時を経て異世界から現実社会に舞い戻ってくる作品や、主人公が異世界に転生される際に強大な力や協力者を得ることと引き換えに前世の記憶を忘れることとなる作品も描かれている。主人公たちの性格は、明るく陽気で、積極的な性格として描かれる作品もある。このように、異世界転生アニメとはいえどもこれまでの描かれ方とは異なった内容で描かれている作品もあり、異世界転生アニメが一概には「現実社会からの逃避」を反映したアニメ作品ともいえなくなってきているのである。この点を議論するには、今後の異世界転生アニメ作品の描かれ方を注視していく必要がある。

現代研究会

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