2021年度前期現代研究会発表13 インド古典舞踊に学ぶ身体を動かす意味 ー神に捧げる踊りの先にー
2021年度前期現代研究会発表13
インド古典舞踊に学ぶ身体を動かす意味 ー神に捧げる踊りの先にー
2021年7月3日
神谷暁子
古典舞踊と呼ばれるものは世界中にあり、インドにも八大古典舞踊として個性的な踊りが全国各地に伝わっている。
筆者は2013年に日本人舞踊家に出会った。東インド、オリッサ州に伝わるオディッシーダンス(Odissi Dance)を日本人舞踊家から習う過程で得た体験から、身体と舞踊の関係を考えてみた。
個性的なインド古典舞踊に共通するのは①寺院に起源をもつ、②現代に伝わる形になったのは早くて15世紀以降、③インド最古の演劇・舞踊・音楽理論書「Nātya-śāstra」を踏襲している、という点があげられる。
インド古典舞踊の起源が寺院にあることから分かるように、踊りは“奉納”されてきた。オディッシーダンスも“マハリ”という巫女の存在は外せない。現代では舞台で披露される機会の方が多くなったが、宗教的な要素は神を模したポーズや演目に見て取れる。
舞踊自体の雰囲気は実際の映像を参照してもらうのが一番分かりやすいので、下記のYouTubeのリンクを参考にしていただきたい。
https://www.youtube.com/watch?v=8Hx4ynj3x8g&list=PLcmnyYTsz-qcxefmulcBSlb2TeFtkl6ch&index=34
舞踊自体が宗教的なものに起源をもつ事に加え、筆者が舞踊を習得する過程で二つの経験を得た。
ひとつめは、師である日本人舞踊家は、修業時代に鏡を一切使用しなかったというエピソード。この話から、鏡で自分のポーズなどを確認するのではなく、指導者からの口頭での修正が頼りだったということがわかる。今でこそ鏡の前でダンスの練習をする光景は一般的になっているが、鏡のない時代は指導者からの指導だけが頼りだったのだろう。
ふたつめは、筆者が初めて人前で踊った時に得た“音楽に合わせて身体が勝手に動く感覚”。振り付けを間違えるなど決して上手な踊りではなかったが、楽しく踊ったことは強く印象に残っている。
これらの経験で何がおこったのか、以下の身体機能面から考えた。
1.ミラー(ミラーリング)効果、2.フロー状態、3.ホメオスタシス
それぞれの詳細についてこの場では割愛するが、1.と2.は脳や心に備わった機能で、3.は身体のバランスが崩れた際に元に戻そうとする機能だ。
筆者の体験と身体機能を合わせて考えると、
ひとつめの経験は、1.ミラー(ミラーリング)効果。ふたつめの経験は、2.フロー状態を表していると仮定した。
また、舞踊は日常生活動作と異なった動きが要求される。3.ホメオスタシスは「外部の環境の変化に対して内部環境を一定の状態に保とうとする性質」だが、姿勢の保持など外から見える部分にも当てはまると個人的には考えている。例えば深呼吸や背筋を伸ばす行為が外から見える部分に当てはまる。
さらに私達の日常生活でも姿勢や所作が美しい人を目の前にすると、自分の背筋も伸びる感覚は、1.ミラー(ミラーリング)効果の影響だと仮定した。
ここで改めて舞踊について考えると、奉納という宗教的に受け継がれてきた意味に加えて、ヒトに備わった機能の塊だと感じる。
宗教と舞踊についての考察としてはまだ不十分だが、人間の身体に備わった機能や認識と宗教は密接に関わっていると考えているので、引き続き古典舞踊を通じて考えていきたいと思う。
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