2021年度前期現代研究会発表10 日本語にみる日本人の心

2021年度前期現代研究会発表10

日本語にみる日本人の心

2021年6月19日

平明子

「日本人は無宗教なのか」ということはよく論じられる点であるが、実際のところ、どうなのであろうか。無宗教であるかどうかを考えるにあたっては、宗教との関係を見てみる必要がある。もともと日本には自然発生的に生じた信仰が根付いている。そこへ6世紀に仏教が、そして19世紀にはキリスト教が伝来した。仏教が日本の人に与えた影響は文化的にも宗教的にも大きかったと言える。一方、キリスト教に関しては、その文化的影響は大きかったものの、宗教的な影響は小さかったと言えるだろう。これは日本に多くのミッション系スクールが存在するにも関わらず、日本人のキリスト教徒の割合が1.5%程度にとどまっていることからも見て取ることができる。教義を有さない自然信仰を古くから持ち、その後、仏教ともその教義に縛られない距離を保ちながら過ごしてきた日本人。創唱宗教との比較においては、日本人は無宗教であると思いがちであるが、日本人独特の信仰、あるいは信仰の姿勢が確立しているのではないだろうか。そういう視点において日本人は無宗教ではない。

本発表ではこれを出発点として、日本人らしさとは、民族が保持する文化とは、文化を保持・継承することと言語の関係、言語の土着性などに着眼し、日本語を観察した。

ある集団の保持する生活様式全般やものの考え方を芳賀綏氏は「メンタルカルチャー」と表現している。日本人らしさとは日本人という集団が保持するメンタルカルチャーにほかならない。そして同時に、ある集団において言語が非常に重要な役割を果たすことは言うまでもない。つまり、日本人らしさとは日本人という集団が日本語を介して保持・継承してきたメンタルカルチャーと言い表すことができるだろう。

ヒトは言語をもって複雑な思考や細やかな感情表現を行っているわけであるが、言語はその言語が存在する環境に多分な影響を受ける。形態論的観察においてよく論じられる点であるが、その例として日本語は雨に関する語彙が豊富である。小雨、霧雨、梅雨、長雨、春雨、秋雨、大雨、豪雨、時雨…非常に多くの語をもって雨の状態を分類する。一方、アラビア語ではラクダに関する語彙が発達している。オス、メス、あるいはヒトコブラクダ、フタコブラクダの区別のみならず、「ファーヒヤ」全てにおいて他のラクダより優れているラクダ、「リバア」3日に一度水を飲むラクダ、など数多くの語彙が存在するようである。ここで注目しておきたいのは、その文化においては、それらの表現を語(一語の単語)として確立するメリットがあるという点である。また、雨に関する日本語の表現の多さから、日本人の季節愛、自然愛を垣間見ることもできる。

言語にはその文化や民族のものの見方、考え方が多分にあらわれている。今後は、日本語の統語、意味論的な視点にも観察の幅を広げて、日本語に見られる日本人の自然信仰、日本人の心を考察していきたい。

現代研究会

「文化と社会に関する様々なテーマ、諸問題を取り上げ、過去から未来への歴史的視野で考察し、議論を行う」ことがこの研究会の目的です。