2021年度前期現代研究会発表9 心と体の健康―宗教の中で伝えられてきたもの―

2021年度前期現代研究会発表9

心と体の健康―宗教の中で伝えられてきたもの―

2021年6月19日

ラミチャネ みなこ


今回は宗教文化の中で育まれた三つの伝統医学について考察した。

様々な地域にある伝統医学の中でも「ユナニ医学」「アーユルヴェーダ」「中国医学」は世界三大伝統医学とされ、現代でも予防医学としての役割を担い存在している。

 「ユナニ医学」は古代ギリシャの医学を起源とし、今ではイスラム医学とも呼ばれる。ヒポクラテスの四体液病理説は人の体内には四種類の体液があるとし、それらを大自然の四元素と対応させた。治療の基本は体内における四種の体液(性質)のバランスを取ることであり、自然治癒と病気の予防を重視している。このギリシャを源にした医学は西洋で育まれたが、中世のキリスト教文化の中で一時衰退してしまう。その後、中世のイスラム教で受け継がれ、イスラムの賢者イブン・スィーナーの「医学典範」をもとに「ユナニ医学」として確立された。

「アーユルヴェーダ」は、インドの古代シャーマニズムに基づく治療から発展した医学で、バラモン教のウパニシャッドの思想が基盤となっている。人の心と体をそれぞれ三つの要素に分け、それらのバランスが崩れることによって病気が生じるとし、綿密な観察と検査によって個々の体質、性質を診断する。心の不安定が身体の生命エネルギーのバランスを崩すという考えが治療の基盤にあり、生活環境も診断の対象となる。

 「中国医学」も医療の根源はシャーマニズムであり、それに道教の陰陽五行思想が組み込まれて発展した。経絡と呼ばれる気血のルートの確立は「中国医学」の独自性であり、そこから鍼灸治療も生まれた。他の伝統医学では必要に応じて外科的手術も行うが、「中国医学」では切開せずに気功(掌からの気を出す)で身体を治療するという方法もとられる。

 以上が世界三大伝統医学の大まかな歴史的背景と特徴である。

(日本の伝統医学として「漢方医学」があるが、これは6世紀頃に中国から伝わった「中国医学」を簡略化して発展させた、漢方薬の処方を中心とした日本独自の医療である)

 

伝統医学は、現代における予防医学であり、その治療には共通して食事など生活スタイルの改善の指導がある。また、マッサージや整体、鍼灸などにより、排出、浄化を促すことも治療の一環である。人体をパーツに分けて診断することはなく、心や霊性も含めたホリスティック(全体観)な治療を施す。伝統医学における健康とは心身の調和とバランスであり、そこには人と大自然との調和の思想が根底にある。

伝統医学の魅力は、心身から余分なものを排除していくという考えにある。それはシャーマニズムにおける除霊や浄霊といった行為が基盤になっているという。人はつい余計なものを口に入れ、余計な想念を背負って生きてしまう。伝統医学が治療を通して心身と向き合う時間を与え、心身を内側からキレイに身軽にしていくものであるならば、人が健康であるための理想的なシステムのひとつとも言える。ただし宗教的思想に関しては科学的な分析と解明が必要に思う。

現代研究会

「文化と社会に関する様々なテーマ、諸問題を取り上げ、過去から未来への歴史的視野で考察し、議論を行う」ことがこの研究会の目的です。