2021年度前期現代研究会発表4 宗教間対話

2021年度前期現代研究会発表4 宗教間対話

2021年 5月8日

小村明子

「宗教間対話」とは何か、その意義と歴史、また現状について報告を行った。まず、なぜ宗教間対話をするのか、宗教間対話の意義についての議論を取り上げ解説した。宗教教義も異なる宗教がその違いを越えて同じ目的を持って活動を行うことが果たしてそれは意義のあることなのか。つまり、宗教間対話とは各宗教における違いを明確にしているだけであり、本当に対話ができるのか。話し合いの場がもたらされても、その場限りで終わってしまうのが常であり、対話の結果が永続しない、活動報告等単なる情報交換に留まるのではないのかという意見は概してよく言われることである。

そこで次に、これまで歴史的にどのような宗教間対話が行われてきたのかについて詳述した。厳密には宗教間対話とは言えないが、世界の宗教者が最初に集ったものとして、1893年にアメリカ合衆国シカゴにて行われた万国宗教会議が報告者により取り上げられた。この宗教会議は、同年に開催されたシカゴ・コロンビア万国博覧会の併設会議の一つであった。様々な意味で、重要視された宗教会議であった。アジアの宗教や精神文化を、アメリカ社会のみならず、ヨーロッパ社会においても知らしめることとなったからである。

その後、ヨーロッパではナチス・ドイツ時代に入るとユダヤ人の迫害が起こった。反ユダヤ教徒感情を育成するために、ナチスはイエス・キリストを十字架にかけたのはユダヤ人であるという宗教上の考えを利用した。これによって、教会もこの反ユダヤ教徒の感情を生み出す要素を提供してナチスを助けたと言われている。第2次世界大戦後、この時の反省から、ドイツのプロテスタント教会から宗教間対話の活動が活発化した。この時に、ユダヤ人のラビやユダヤ教徒の教師たちも戦後キリスト教徒と積極的に関わることで、対話プロセスが進められていった。しかしながら、対話というよりは情報交換がおおく、キリスト教徒側の参加者からの罪の意識に支配されていた。

ユダヤ人とキリスト教間での対話に転機が生まれたのは、パレスチナにおける戦後のユダヤ人国家の成立で、中東戦争が勃発したことによる。戦争の犠牲者と多くのパレスチナ難民を生み出したこともあって、国際問題となっていた。こうした国際情勢の中で、ドイツにおける宗教間対話の中で、ユダヤ人の過去の取り扱いについて、ドイツ人の罪の意識の再検討を超えて、その代わりに、ある質問を尋ねたいという願いが生まれた。それが、「今日教会がユダヤ教徒のために何か他にすることができるのか」という問いであった。そこで、このパレスチナ難民と中東戦争が注目された。同じ一神教であるが、イスラームがこれまで抜けていたからであった。その後、いくつかの会議の開催を経て、将来を担う次世代の若い宗教者を構成員の中心として「ヨーロッパ・ユダヤ教徒・キリスト教徒・ムスリム協議会」が創設されることとなった。こうして世界平和という共通の目標を通していくつかの宗教(団体)の間で協働する動きが出てきた。すなわち、たとえ宗教の相違があったとしても、具体的な共通目的を持ち、協働することで対話の場を見出すのである。

最後に宗教間対話の現状について報告した。「ともに社会活動すること」、これが現在の宗教間対話での中心的活動となっているが、具体的な事例として、日本の団体や寺院での活動を紹介した。特に若い神職や僧侶等による活動は、当初は日本の若者たちの宗教離れの危惧によるものであるが、のちに他宗教の神職や僧侶との協働となり、結果として宗教間対話としての構造を生んでいることを述べた。

以上。

現代研究会

「文化と社会に関する様々なテーマ、諸問題を取り上げ、過去から未来への歴史的視野で考察し、議論を行う」ことがこの研究会の目的です。