2020年度後期発表14 ボリビアのイスラーム
2020年度後期発表14
ボリビアのイスラーム
小村明子
2021年2月20日発表要旨
本研究の目的は、異文化社会、特に中南米というイスラームが生まれ、ムスリムが多数派となる中東から地理的に遠い地域におけるイスラームの現状及びムスリムたちの生き方の実情を知ることにある。またそれによって、イスラームの土着化あるいは伝播の過程をみていくことにある。その一例として、南米大陸の内陸に位置し、国の全人口比率から見てもムスリム人口が少ない国、ボリビア多民族国に焦点を当てることにする。
一般に、中南米ではキリスト教カトリックが信仰されている。それ故、多くの日本人が「中南米にイスラーム教徒がいるなんて」と疑いの目を向けるのは当然のことなのかもしれない。だが、そもそも南アメリカ大陸におけるイスラームの流入は、近年のブラジルを中心とした南米経済の発展に伴う移民の増加によって始まったのではなく、17世紀ヨーロッパ各国の植民地政策によるムスリムたちの移住から始まった。またその後19世紀から20世紀初頭の中東、とりわけパレスチナ地域からムスリムたちが移民として北米も含めたアメリカ大陸へと渡ったことによるものである。
こうした人の移動に伴う宗教文化の伝播は、国や地域の社会状況を反映しつつ現地の改宗者や移民の子孫によって、長い年月をかけてその国や地域の伝統宗教や宗教と融合して土着化していく様相を見せる。しかしながら中南米の一部の国や地域においては、イスラームが定着することなく、また子孫たちへの宗教の継承もされることもないまま、新たに流入してきたニューカマーとしてのムスリムたちの僅かな存在がみられる程度のところもある。
ところが近年の傾向として、インターネットを通して地域を超えたイスラームの共有もみられる。すなわち、中東から遠い地域、例えばヨーロッパやアメリカなどで生まれ育った人々のみならず、かつて先祖がムスリムであったことを知った人々が、ムスリムとの直接の出会いを通さずとも、インターネット及び衛星放送などのメディアを媒体としてイスラームという宗教を知ることができるようになり、S N Sなどを通じた対話の中でイスラームに改宗することもまたできるのである。これはそれまでの人の移動に伴う宗教の伝播とは異なる、また地域の文化と融合もしない、メディアのグローバル化が可能にした全く新しい手段によるイスラームの伝播とみなすことができる。なお本発表では、ボリビア在住の複数のムスリムに対して行ったインタビューの結果と分析を中心に発表していく。
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