2020年度後期発表11 悲哀に向き合う音と歌の力

2020年度後期発表11

悲哀に向き合う音と歌の力 

佐藤壮広(立教大学コミュニティ福祉学部非常勤講師)

2021年1月16日現代研究会発表要旨

4年前に他界した父は、歌手・五木ひろしのファンだった。机上に遺された CD を再生して五木ひろしの「よこはまたそがれ」や「長良川艶歌」を聴くと、父の顔が浮かぶ。また、カラオケで自分がそれらの歌を歌う時には、「これも供養のかたちだなあ」と感じる。歌や音楽は、死の場面では自身の歩みを振り返る大切な素材のひとつとなり、また遺族や友人知人たちが故人を偲ぶひとときには、それらが生者と死者をつなぐ大切な役割を果たす。

歌と弔いを考えることは、死者の生の軌跡を、歌を通して抱擁する行為であり、またどのような歌が精その人の精神生活を彩ってきたかを考えることでもある。日常生活の中で、「あなたはどんな 歌を聴いてきましたか」と語りあう機会がもっと増えれば、私事化(Privatization)して閉じていく死と弔いの文化が、 歌を通して開かれるのではないだろうか。

現代研究会

「文化と社会に関する様々なテーマ、諸問題を取り上げ、過去から未来への歴史的視野で考察し、議論を行う」ことがこの研究会の目的です。