2020年度後期発表5 ボリビア・アマゾンの自然宗教
2020年度後期発表5
ボリビア・アマゾンの自然宗教
実松克義
2020年9月19日 現代研究会
要旨(Abstract)
ボリビア・アマゾン、モホス大平原はアマゾン川の巨大支流、マデイラ川の上流に位置する広大な氾濫原である。かつてこの地域には大規模な古代文明が存在していたが、現在ではその大部分は文明とは程遠い無人の荒野となっている。この発表では大平原に住む二つの先住民族、モホ族とシリオノ族の自然宗教を取り上げ、その特徴と本質を探ってみたい。これらの民族はキリスト教の強い影響を受けている。17世紀後半に到来したイエズス会修道士たちは短期間のうちにモホス先住民族を教化し、多くの伝道地(ミッション)を建設した。そのため伝統文化は急速に消失し、現在に伝わるのはキリスト教とのシンクレティズム(宗教的混交)である。
では昔の伝統はまったく失われてしまったのか。筆者は2005年~2010年にかけてこの地域を頻繁に訪れ、とりわけ2007年に集中的に二つの民族の現地調査を実施した。その結果キリスト教の影響を受けた文化の中に民族独自の自然宗教を確認することができた。モホ族はこの地域最大のグループであるが、伝統的に農耕民族として知られている。毎年7月末に行われるサン・イグナシオ・デ・モホスの大祭では「マチェテロの踊り」、「アチュの仮面」など、象徴化された農事の中に、農耕民族特有の伝統と思想が見られる。そこにはアマゾン大自然の中に生きる農耕民族としての実践的知恵と活力があり、また伝統と古代への尊敬がある。
対照的にシリオノ族は小規模なグループで、ムビアと呼ばれる狩猟民族である。これらの人々は、かつてはモホスの原野を移動しながら狩りを行い、極めて原始的な生活を営んでいた。その世界にはアインゲ、アバッチュクワイヤ、エツィロケ、クルックァなど、多くの精霊が存在する。そのため表層しかわからない人類学者に低級な未開人として誤解された。しかし彼らはアマゾンの本質に精通した「森の人」であり、膨大な薬草とエコロジーの知識を持っている。そこにあるもの、それは絶対的自然への畏怖と生きるための知恵である。発表ではこれらの伝統宗教の内容を明らかにし、人間にとって自然とは何か、文化とは、宗教とは何かを考えたい。
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