2020年度後期発表2 ヒンドゥー教的な世界
【ヒンドゥー教的な世界】発表概要
平 明子
ヒンドゥー教はインド亜大陸に起源をもち、インドの様々な地域で生まれた多様な信仰の総称であり、いわゆる宗教を定義する一般的な枠組みや表現で定義することは非常に難しい。その多様な信仰の中に共通に存在する概念がヒンドゥー教の基盤となっていると理解することが妥当であると言える。多種多様であるがゆえ、柔軟であるという点もヒンドゥー教の特徴であると言えるであろう。
本発表では、我々にとっては一見すると無縁に思えるヒンドゥー教的な世界との関わりについて、ヨーガ「Yoga」の語源をきっかけに考察した。
日本では、ヨーガは身近な存在である。多くのヨーガ教室があり、スポーツジムにもヨーガクラスがあって気軽に参加できる。日本では健康志向、あるいはスポーツの延長という感覚で実践している人が多く、ビジネスの色合いも強いヨーガであるが、その起源は古く、ヒンドゥー教の宗教的教えと思想においては、輪廻から解放されるための方法であり重要な修行法である。
「Yoga」は「くびきで連結する」という意味を持つ印欧語族の語である。印欧語族の語ではあるが、ヨーガの要素はインダス文明にすでに見て取ることができるという研究がある。ウパニシャッド成立の時代からインド哲学史に表出しており、宇宙原理ブラフマンと個我アートマンが本来的には同一のものであり、それを直観的に理解するための方法(修行法)としてヨーガが発達、体系化し、ヒンドゥー教の教えにおいて重要な役割を担うものと位置付けられた。
ヨーガはインドの思想つまりヒンドゥー教の根幹と深いつながりがあり、非常に混沌とした中にありながらもインド土着の思考、習慣、生活様式の確立と影響しあいながら長い時をかけて脈々と体系化してきた、いわばインドの文化であるといえるのではないだろうか。ヨーガの実践は、インド亜大陸の空気を感じ、「ヒンドゥー教的な世界」を垣間見ることに等しいと言える。多種多様で柔軟なヒンドゥー教であるが、その教徒のほとんどがインド亜大陸に住んでいることからもわかるように、その根幹である「カースト制度」がない土壌には伝わりにくい。しかし、ヒンドゥー教が宗教として伝わりにくいがゆえに、インド医学を含む数々の教えが有益な知識として他地域に広まり受け入れられた結果、日本にいる我々は意外にヒンドゥー教的な世界を感じる機会が身近にあるのかもしれない、まさにヨーガはそれであると思えた。
【参考文献】
立川武蔵 『ヒンドゥー教の歴史』 山川出版社 2014
山下博司 『ヨーガの思想』 講談社 2009
ドーキング・キンダースリー社 編 『宗教学大図鑑 The Religions Book』
島薗進、中村圭志(日本語監修) 豊島実和(訳) 2015
Hugh P. Kemp 『世界の宗教』 大和昌平(監訳) いのちのことば社 2015
スーザン・タイラー・ヒッチコック、ジョン・L・エスポズィート
『世界の宗教』 小澤和幸(編) 日経ナショナルジオグラフィック社 2005
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