2019年度後期第4回現代研究会報告

2020年1月18日(土) 時間:13:30~17::10 

場所:立教大学

 出席者:9名 

発表1 

発表者:茂木明石 

テーマ: 平塚の地域創生ー迫られる戦災復興型地域創生からの脱却 

平塚市の歴史地理学(あるいは地域歴史学)とでもいうべきレクチャーであった。平塚市は鎌倉市 、藤沢市、あるいは小田原市に比べて知名度は低い。しかし温暖で肥沃な土地であり、古くから 農業、商業の中心地として、また江戸時代には宿場町(平塚宿)として栄えた。平塚市の前史とし て真土事件、報徳運動、また軍需工場の建設などが語られた。平塚市は平塚町と須馬町の合併 によって誕生するが、市制が施行されたのは1922年である。その後、本格的な工業化が始まり 、アジア・太平洋戦争の時代には軍需工業都市となった。平塚市は空襲で荒廃するが、戦後、速 やかに復興都市計画を立案し実施した。特に市営競輪及び地方競馬事業は財政復興に貢献した 。また現在の「湘南ひらつか七夕まつり」のイベントも始まった。その後、平塚市は広域合併によっ て拡大して順調に成長し、現在の人口は26万を数える。平塚市の強みは土地や交通の便など、 恵まれた立地条件にある。そのため住宅地、工業地、商業地がほどよいバランスをとっている。ま た何よりも東京の通勤圏内にあるのは大きい。しかし、何一つこれといった不満もないが、同時に また何か決定的なもの(売り)が欠けているかもしれない。そのため市は「環境と文化の街」を目標 に環境美化を図り、スポーツを中心とする多くのイベントを実施している。 

発表2 

発表者:桑原真弓 

テーマ: 地域学校協働活動―江東区立中学校での取り組み 

発表者が実際に関わってきた江東区立中学校における学校・地域連携教育の実践報告である。 最近の日本社会において貧困による学力不足が問題化しているが、東京都内の小中学校でも例 外ではない。実態調査によれば、貧困による子供の教育格差は10歳頃から現れる。落ちこぼれ た生徒は授業が分からないので、教師の指示に従わず、やがて不登校になるという。この問題を 解決すべく江東区立中学校では10年ほど前から独自の取り組みを行っている。一つは「学校内 の塾」で、塾と提携して学校内で英語の補習授業等を行っている。もう一つは―こちらがより本質 的なものだが―江東区に住む退職者・高齢者等を講師として特別授業が実施されている。これら の人々は退職ボランティアではあるが、様々な分野の高度な知識と豊かな経験を持っている。江 東区立第三砂町中学校では土曜日・夏休み・冬休みを利用して様々な補習授業を行っている。ボ ランティアと生徒のニーズは相互に合致し、また年齢差から相性も良い。前者は生甲斐を、また後 者は学ぶ喜びを見出す。その結果、有益な相乗効果が生まれ、例えば、英検の合格者数が増え たという。この興味深いコミュニティ・スクールの実際については三砂中のホームページで見ること ができる。

 http://3suna-chu.koto.ed.jp 

発表3 

発表者:小村明子 

テーマ:地域振興とアニメ−自治体による地域振興の場におけるアニメ作品の活用例を考察する 

アニメが実際の地域振興の現場でどのように使われているのかについての調査研究の報告であ る。近年におけるアニメ作品の傾向として、具体的な場所、地域、町、神社等を舞台としたものが 多い。これらはアニメの「聖地」と呼ばれるが、多くのファンが「聖地巡礼」を行っている。これらの アニメ「聖地」の多くはアニメ制作会社がストーリーの舞台として設定したものであるが、舞台とな る地方自治体の方でもそれを積極的に活用し、地域の観光振興の起爆剤にしたいと考えるのは 当然である。発表者は2019年夏に日本各地の自治体にアンケート調査を行い、回答が得られた9 つの自治体について、さらに詳しいフィールドワークあるいは電話による聞き取り調査を実施した 。茨木県大洗町(ガールズ&パンツァー)、岐阜県飛騨市(君の名は)、静岡県沼津市(ラブライブl サンシャイン)、佐賀県庁(ゾンビランドサガ)、埼玉県久喜市(らき☆すた)、山梨県身延町(ゆるキ ャン△)等である。その結果、多くの自治体でアニメとコラボした様々なイベントを行っていて、地元 の観光振興に役立っている、しかしアニメだけに頼った「町おこし」にはやはり限度があり、自治体 は次の一手を模索して様々な試行を重ねている、等が判明した。

現代研究会

「文化と社会に関する様々なテーマ、諸問題を取り上げ、過去から未来への歴史的視野で考察し、議論を行う」ことがこの研究会の目的です。