参考:アニメと地域創生アニメ「ゾンビランドサガ」を考える

小村 明子

 ここ近年のアニメの傾向の一つとして、原作となる漫画本には場所や風景が明確に描かれていないにも関わらず、アニメにはしっかりと場所を特定できるように書かれている作品がある。アニメはインターネット上で動画配信できるために瞬時に世界中に知らせることができる。故意にアニメの風景に実際の街並みを描写することは街の宣伝効果にもつながる。アニメに登場する街並みと現実の街並みが一致しているか、主人公たちがどこでどういう行動をしたのか、アニメファンたちが実際に街を訪れに来る。いわゆる「アニメ聖地巡礼」である。近年のアニメの一部はこの聖地巡礼を狙っての描写になっている。それゆえに、地域創生の試みにアニメコンテンツを利用する自治体が多い。


新しいアニメはほぼ3ヵ月ごとに開始されるので、筆者は放映開始される度にアニメをチェックすることに少々食傷気味でもあるのだが、今秋から始まったアニメ「ゾンビランドサガ」 については一目置いている。というのは、地域創生におけるアニメコンテンツの意義を考える意味においても非常にインパクトがあるといえるからである。


このアニメは、死亡した若い女性たちがゾンビとなって復活し、アイドルになって佐賀県を盛り上げていくという内容のものである。また名の知れている声優さんたちがアフレコをしており、声優ファンも虜にする作りとなっている。


Twitterなどのインターネットでの反響を見る限りにおいては、ゾンビを扱うことについて賛否分かれているといえるだろう。ただ筆者の個人的な見解としては、単純にアイドルが出てくるアニメよりかは、ゾンビがアイドルになる方が世間の話題とはなるので、佐賀県に注目するきっかけを与えたという点では評価は高いといえよう。


さて筆者が地域創生におけるアニメコンテンツの利用において、このアニメに着目しているのは、アニメの中で「佐賀を盛り上げて行く」と何度もセリフにあるように、佐賀県を大々的に出していることである。またエンディングテロップには「企画協力:佐賀県」と記されている。故にアニメの背景が佐賀県一色であることは当然のことながら、毎回話、要所要所に佐賀県の観光地(嬉野温泉など)や佐賀の特産品・名産品を出したりもしている。特に、第5話は非常に興味深かった。いつも通りにアニメ放映を見ていると、声優さんがどう考えても素人さんを使っているとしか思えなかったからである。長編アニメ映画でよく見られる若手芸人さんを使っているのではと思ってエンディングテロップを見ていたら、地元の鶏料理店の社長さんだった。この回には佐賀県の職員もアフレコしており、まさに佐賀愛に溢れているアニメであると言える。後でこのアニメに関するTwitterの反応を見たら、「遠いけど佐賀県にいつかは行ってみたい」という主旨のツイートをいくつも見つけた。


これまでに複数のアニメが特定できる地域を扱ってきた。またアニメファンがアニメに登場してきた風景を、あるいは登場人物と同じ動作を確認するために聖地巡礼を行っている。これまでに地域の風景や施設などがアニメの背景になっているということで地方自治体がアニメとタイアップすることはあっても、企画協力として全面的にアニメを支援するということは筆者の知る限りあまりなかったと思う。その意味では地域創生にアニメコンテンツをうまく利用しているといえるだろう。


ただこうしたアニメコンテンツは一過性のものであり、地域創生に永続的に利用できるかといえばそうとはいいきれない。これはアニメに限らずドラマにしてもそうである。ある地域がドラマの舞台として取り上げられると、ドラマの主旨や歴史上の人物、どの俳優・女優が主役なのかなど様々な視点からドラマのファンが出来て、巡礼のために地域に観光客が増え始める。そのドラマが続いている間は、観光客は来るだろう。ところが終わったらどうなるのだろうか。敢えて言おう。ブームは過去のものとなり、観光客は減る。


多くのアニメは12話1クールの作品として作られているので、約3ヶ月という放映期間は話題がある。ただし、アニメ放映が終わった後が正念場である。如何に固定ファンに地域に足繁く通ってもらうか、そのためのイベントをどう企画運営するかなどコンテンツを生かした様々な取り組みが必要となる。


ただ一方でこんな事例もある。アニメ映画「君の名は。」の舞台となり、アニメファンの聖地巡礼で賑わう岐阜県飛騨市古川町では、聖地巡礼ブームで観光客が増えたという。しかしながら、ブームは一過性のものであり、それに依存することはできないことも町は知っている。現在は町の状況の分析結果として、町が本来持つ良さを生かして観光地化する対策を取っているという 。


「ソンビランドサガ」は佐賀愛に溢れたインパクト性の高いアニメである。したがって、地域創生において、このアニメコンテンツを今後如何に活用するのかは今後の県の動き次第であろう。

  東洋経済ON LINE「「君の名は。」の聖地が進める「君の名は。」離れ」(https://toyokeizai.net/articles/-/254069 閲覧日:2018年12月9日).

現代研究会

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