後期テーマ:「地域創生」発表4RevitalizationとCreation —栃木県内の取り組みと現状に関する考察—

地域創生,RevitalizationとCreation

——栃木県内の取り組みと現状に関する考察——

平 林 二 郎

1.地域創生とは何か?
2.栃木県内に見るRegional Revitalization
3.栃木県内に見るRegional Creation
4.おわりに


1.地域創生とは何か?

 地域創生・地方創生 ※1 という言葉は,一般的に第2次安倍政権で掲げられた,東京一極集中を是正し,地方の人口減少に歯止めをかけ、日本全体の活力を上げることを目的とした一連

の政策を指しており ※2 ,ニュースなどではRegional Revitalizationと英訳される.

 しかし,現代研究会の諸先生方の発表を聴いていると地域創生という言葉にはRegional

Revitalization(地域活性化)という面とRegional Creation(地域創生)という面があるよう

に私には思われる.

1.1. Regional Revitalization(地域活性化)とRegional Creation(地域創生)の分類

 実松先生が紹介した2040年に若年女性人口変化率が上位となる5つの都市パターンを例

とすれば,

・regional revitalization

  1)産業誘致型?,2)ベッドタウン型,4)公共財主導型

・regional creation

  3)学園都市型?,5)産業開発型

というように分類できると思われる.

 この他,小村先生が扱った観光地の事例はRegional Revitalizationになると思われ,実松先

生の扱った神山プロジェクトなどはRegional Creationになると思われる.

 

2.栃木県内に見るRegional Revitalization

 本発表では,栃木県内の取り組みをRegional RevitalizationとRegional Creationに分け考

察する.まず,Regional Revitalizationについて考察していきたい.

 栃木県総合政策部総合政策課が調査した栃木県に関するイメージは

  1位:歴史文化遺産

  2位:食

  3位:温泉

となっている ※3 .

2.1. 日光について

 栃木県内には戒壇のあった下野薬師寺跡,足利学校などがあるが,歴史文化遺産とは世界

遺産となった日光の社寺「東照宮,および,輪王寺」を指しているとイメージしていると考

えられる.


 日光の観光客数は2011年の東日本大震災の影響で大きく減少したが,現在では2011年以

前を超える観光客を集めている※ 4 .

日光のインバウンド調査結果を見ると,はじめて日光を訪問する外国人観光客の割合が多

く(87.6%),その内の約60%が日帰りであり,宿泊客の内の約半数が1泊しかしていない

※5 .

 下記図のデータを見る限り ※6 ,リピーターの取り込みには成功していないと考えられる. 日本リピーターになればなるほどに宿泊率が上がるとのデータがあり,最初の来訪の際に満足度を高めることが鍵になるとの提言があしぎん総合研究所によってなされている ※7(下表はあしぎん総合研究所 [2015: p. 12]から引用)

 これは日光のみならず,日本の多くの観光地に当てはまる提言であると思われる.

・日光の寺社の問題点

 あしぎん総合研究所[2015: p. 5]は,

訪日客の全体傾向としては「検索サイト」「個人のブログ」が主流であることから、イ

ンターネットでのPR強化は必須。日本滞在中は、PC(49.1%)の他、現地での観光案

内所(32.3%)の利用率も高い

との指摘をしている.

それにもかかわらず,東照宮の英語版HPは日本語版HPを翻訳しただけであり,輪王寺に

至っては英語版のHPすら作成されていない.

3.栃木県内に見るRegional Creation

 Regional Creationの例として本発表では足利市と那珂川町の例を挙げてみたい.

3.1. 足利市について

 足利市には足利学校や足利フラワーパークなどの観光地があるが,近年,映画やロケ地と

して地域を創生している.

 具体的には

映画:『アンフェア the end』(2015),『ちはやふる』(2016)など

ドラマ:『陸王』(2017),『アンナチュラル』(2018)など

MV:嵐『夏疾風』(2018),乃木坂46『帰り道は遠回りしたくなる』(2018)など

のロケ地となっている.

 それでは数多くあるロケ地のなかで「なぜ足利市が人気のロケ地となったか」その要因を

見てみたい ※ 8 .

足利市はFC(フィルムコミッション)という担当部署を作り,映画撮影の誘致,支援.

担当者が台本を読み込み,足利市でロケができそうな場所を提案する.

 使われいない施設を有効に活用する.

映画『ちはやふる』,嵐『夏疾風』などを撮影した「旧足利西高校」はロケ地の

聖地と もよばれている ※9 .

足利市FCはこの設備の維持に年間100万円ほどかけているが,2017年度は施設貸

し出し料金として約300万円の収入を見込んでいる ※10 .

・足利市の好循環

 足利市で撮影が決まると,足利市はエキストラを募集する ※11 .エキストラとして映画に参加した足利市民がその映画を見たいと思うようになり,2007年に廃館となっていた映画館が2016年に復活した.

・今後の展開

 足利市のFCの辺見課長は足利西高校の中にスタジオを誘致したい。オープンセットを入れたり、その場で編集できる設備も入れたい。そうすれば雇用にもつながると語っている ※12

3.2. 那珂川町について

 那珂川町は2005年に那須郡小川町と馬頭町が合併して発足した町であり,町名は町内を

流れる那珂川を由来としている.

 那珂川町にはこれといった産業がなく平成14〜15年に「産業廃棄物最終処分場」の候補地

となり,平成16年に最終処分場建設事業の実施が決定された.

 歴史的遺産や他の市町村と比べアピールできる特色の少ない那珂川町は海水の代わりに温

泉水を使ってフグを養殖する「温泉トラフグ」の町として有名になりつつある.

・元祖温泉トラフグ ※13

 温泉でトラフグを養殖することに成功した野口勝明さんは大学進学で東京に出て就職した

後,27歳で故郷に,1984年に公害対策基本法(現・環境基本法)に対応し、重金属やアス

ベストなどの高精度分析事業やダイオキシン類の分析する株式会社環境生物研究所を立ち上

げた.

那珂川町の人口が毎年250人ずつ減っていることに危機感を覚えた野口さんは那珂川町内

にある塩化物泉に注目し「塩水がでるのだったら,海の生物が飼えるんじゃないか?」と目

をつける.

 2008年,野口さんは人工海水(塩分濃度0.9%),温泉水(同0.9%),人工海水(同

3.5%)の3つの水槽を設置し,トラフグ百尾を飼育開始する.

 2009年,町民50人を招き試食会を開催するも,一部の人たちから「身がやわらかい」,「味が薄い」との意見を聞く.この結果を東京大学大学院農学生命科学研究科の金子豊

二教授に相談し共同研究を開始する.研究の結果,出荷12時間前に塩分濃度3.5%,海水と

同じ塩分の水に入れることで塩分濃度0.9%の環境に慣れたトラフグは浸透圧調整ができず

,肝臓に蓄えたアミノ酸を血液から筋肉組織に流し込み,それがうまみ成分となり、味がよ

くなるとわかった.

2010年,株式会社夢創造を立上げ,温泉トラフグの養殖・販売を開始.現在は那珂川町旧

武茂小学校廃校教室を活用し3000尾のトラフグ養殖し,年間25トン出荷している.また,

野口さんは「海水魚の陸上での養殖が普及すれば、水産資源保護に役立ち、地域の活性化に

もつながるはず。今後は、クエなどにも挑戦していきたい」と意気込んでいると新聞では報

じている ※14 .


4.おわりに

 本発表では栃木県内の取り組みをRegional RevitalizationとRegional Creationにわけて紹介・考察した.

 地域創生の問題を考える際,自然や歴史的遺産や他の地域にはない特色をすでに持っている地域はRegional Revitalization,つまり,地域活性化の方策を考えるべきである.

 一方,上記の都市と比べ特色のない地域はRegional Creation,その地域に新しい何かを創生する必要があると考えられる.

 Regional Revitalizationにしても,Regional Creationにしても,その地域の歴史や特色を活かし,地域に根付いたプランを実行する必要がある.ありきたりな結論ではあるが,そのようなプランを成功させるには地域愛,郷土愛をもった人を育む必要があると考えられる.



注釈

※1 地域創生と地方創生という二つの言葉には問題があるが,本発表ではこれらの言葉をまと

めて広義の地域創生とする.

※2 Wikipedia: 「地方創生」を参照.

※3 栃木県総合政策部総合政策課「「栃木県に関するイメージ調査」の結果について」,p. 1を http://www.pref.tochigi.lg.jp/a01/houdou/documents/260422chousakekka.pdf

※4 栃木県産業労働観光部観光交流課「平成27年(2015)栃木観光客入込数・宿泊数推定調査結果」,p. 10を参照http://www.pref.tochigi.lg.jp/f05/system/honchou/honchou/documents/honpen03.pdf)

※5 株式会社あしぎん総合研究所「日光インバウンド調査〜訪問外国人への四季を通したアン

ケート調査〜」2015年p. 5を参照(http://www.ashikagabank.co.jp/news/pdf/abk_q1990.pdf)

※6 Ibid., p. 12より引用.

※7 Ibid., p. 13を参照.

※8 WEDGE Infinity 編集部「足利が人気のロケ地になった3つの理由」(http://wedge.ismedia.jp/articles/-/10759?page=2)を参照.http://wedge.ismedia.jp/articles/-/10759?page=2

※9 Yahooニュース「学園モノのロケの聖地を1日限り大解放!足利で「聖地!西高学園祭」開催決定)(https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20181002-00010000-locationj-ent),お

よび,栃木ジャーナル「足利市のロケ地の聖地「旧足利西高校」を徹底解剖。嵐も来たよ

!」(http://gyozashout.com/ashikaganishikoukou/)を参照.

※10 註8を参照.

※11 このエキストラの募集にはtwitterなどが使われ,足利市映像のまち推進課のtwitterアカウ

ントのフォロワーは6000人を超えている

※12 註8を参照.

※13 元祖温泉トラフグ(http://www.ganso-onsentorahugu.com/),および,ミツカン水の文化センター「過疎に悩む地域を救うか?「温泉とらふふぐ」http://www.mizu.gr.jp/kikanshi/no49/05.htmlを参照

※14 朝日新聞デジタル「海のない栃木で養殖成功「温泉トラフグ」全国へ技術輸出」(https://www.asahi.com/articles/ASL6T34J4L6TUUHB004.html)を参照.

現代研究会

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